柴崎友香『あらゆることは今起こる』〈シリーズ ケアをひらく〉医学書院

柴崎 友香
ISBN:978-4-260-05694-6
A5判
304ページ
定価: 2,000円+税
発行:医学書院

書店発売日: 2024年5月13日

『百年の孤独』は別売りです!

¥2,200 (税込)

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説明

ADHD。注意(attention) 欠乏(deficit) 多動(hyperactivity) 障害(disorder)。当事者の体験世界を小説家である著者が書き記した本である。

話があちこちに飛ぶとか、学校の授業中にじっと座っていられないとか、片付けられないとか、時間どおりに移動することが苦手であるとか言ったことは、程度の違いこそあれ、多くの人にも思い当たる節があることでもある。

だからこそ、ADHDの傾向がある人の日常生活における困りごとは、本人の努力が足りないだけとされてしまう問題も起こる。しかし、投薬に頼らなければ、生活が成り立たないほどの症状は、やはりあるのである。

そもそも自分の体験世界を他人に伝えることは難しい。今自分が見ているこの色が、他の人にも同じように見えている証拠はどこにもないのである。人はそれぞれの感覚世界を生きていて、世界の感じ方には個人差があるということを思い出せれば、症状に苦労している人に対して自分の感覚のみから出発して怠けているだけだと断じたり、差別につながる安易なレッテル貼りをすることはなくなるだろう。

「あらゆることは今起こる」というタイトルの意味は、自分の体の中には複数の時間が流れているということ。著者の意識は、いま自分がいる場所や見ているものの現在の様子だけではなく、過去や未来、他の誰かの異なる視点からの見え方などが同時に存在しているという。そのような意識のあり方は、単線的な意識をあるものに集中させて暮らすことが正常で望ましいとされている世間では、落ち着きがない、注意力が散漫であるとされてしまうわけだが、著者は小説家として、そのような世界認識を独特の作品に昇華させることができたのである。

・・・体内の複数の時間は、それほどくっきり分かれていない感じは、私が好きな小説にある。・・・ガルシア=マルケス『百年の孤独』(新潮社)の書き出しはこうである・・・同名の人物が何人かいて、様々なエピソードが入り混じって語られるので時系列を整理して読もうとするとたぶん難しく感じられ、その行き来する不安定さ、茫洋とした混沌の流れに漂ったほうがわかりやすい(本書P223-224 から引用)

『百年の孤独』を楽しむヒントがここにありました。(『百年の孤独』は別売りです)